刑法における錯誤に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、ど…
午前の部(刑法) 午前の部 第24問
刑法における錯誤に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。ア Aは、警察官Bから銃を強取する意図で、殺意をもってBに向けて銃を発射し、その弾丸がBの身体を貫通してBに傷害を負わせた上、たまたま付近を歩行中のCに命中して傷害を負わせた。この場合、Aには、BとCに対する各強盗殺人未遂罪が成立する。イ 暴行を共謀した共犯者のうちの一人が殺意をもって被害者を殺した。この場合、殺意のなかった共犯者には、殺人罪が成立するが、その刑は傷害致死罪の限度で処断される。ウ Aは、殺意をもってBの首を絞めたことによりBが身動きしなくなったので、Bが既に死んだと誤信し、隠蔽のためにBを海岸に運んで砂の上に放置したところ、Bは砂を吸い込んで窒息死した。この場合、Aには、殺人罪は成立しない。エ Aは、殺意をもって日本刀でBを突き刺して殺した際、同時にBが抱いていた幼児Cをもその存在に気づかないまま刺殺した。この場合、Aには、Bに対しては殺人罪が成立するが、Cに対しては、殺人罪は成立せず、過失致死罪が成立する。オ Aは、文書に客観的にわいせつと評価される記載が存在することについては認識していたが、わいせつ文書頒布罪におけるわいせつ文書には当たらないと思ってその文書を頒布販売した。この場合、Aには、わいせつ文書頒布罪が成立する。
- (1)アウ
- (2)アオ
- (3)イウ
- (4)イエ
- (5)エオ
正答 (2)
正答は (2)。正しいのはアとオです。
【ア】正しい
判例は、強盗の手段として殺意をもって警察官に向けて銃を発射し、その弾丸が警察官に傷害を負わせたうえ、たまたま付近を通行中の者にも命中して傷害を負わせた事案で、犯人の認識した内容と発生した事実とが法定の範囲内で一致していれば故意が認められる(法定的符合説)とし、予期しなかった通行人に対する関係でも故意を肯定しました。そして、警察官と通行人のそれぞれに対する強盗殺人未遂罪が成立するとしています(いわゆる数故意犯説)。
【イ】誤り
判例は、暴行・傷害を共謀した共犯者のうちの一人が殺意をもって被害者を殺害した事案で、殺意のなかった共犯者については、殺人罪の共同正犯と傷害致死罪の共同正犯の構成要件が重なり合う限度で、軽い傷害致死罪の共同正犯が成立するとしています。殺人罪が成立して刑だけを傷害致死罪の限度で処断する、という考え方は採っていません。
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【ウ】誤り
判例(いわゆる砂末吸引事件)は、殺意をもって首を絞め、被害者が死亡したものと誤信して犯行の発覚を防ぐため海岸に運んで放置したところ、被害者が砂末を吸引して窒息死した事案で、首を絞めた行為と死亡との間の因果関係を認め、殺人罪の成立を認めました。因果関係の錯誤は故意を阻却しません。
【エ】誤り
法定的符合説に立つ判例の考え方では、行為者がその存在に気づいていなかった者に結果が生じた場合でも、「人を殺す」という認識がある以上、その者に対する殺人罪の故意も認められます(アと同じ数故意犯説)。Cに対しても殺人罪が成立し、過失致死罪にとどまるわけではありません。
【オ】正しい
判例(チャタレイ事件)は、わいせつ文書頒布罪の故意としては、問題となる記載の存在の認識とこれを頒布販売することの認識があれば足り、その文書が法律上わいせつ文書に当たるかどうかの認識までは要しないとしました。わいせつ性に関する評価を誤っても、それは法律の錯誤(刑法38条3項)であり、故意は阻却されません。
【まとめ】
正しいのはアとオで、この組合せは (2) です。
【整理】
具体的事実の錯誤は、判例上、方法の錯誤(打撃の錯誤)・客体の錯誤ともに法定的符合説で故意を認めます。抽象的事実の錯誤(異なる構成要件にまたがる場合)は、構成要件が重なり合う限度で軽い罪の故意犯が成立します(イの結論)。
出典:2025年(令和7年度) 司法書士試験 午前の部 第24問(法務省 公表)出典元ページ
最終更新日
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